さいちゃんの教会音楽な日々 -26ページ目

嬉しいけれど、複雑な気分。

 珍しく空きの土曜日で家にいたら、これまた珍しい時間に電話がかかってきた。「あの、あなたは私のことを知らないかもしれませんが、Tというものなのですが…」どう聞いてもおばあさんの声である。
 気がつくのに3秒ほどかかった。「もしかして、Hさんのお知り合いではないですか?」「そうです、そうです」と電話の向こうからちょっとホッとした声。
 Hさんとは、一昨年の12月に92歳で亡くなった、私の最年長のピアノの生徒だった方だ。生徒とはいっても人生の大先輩、さんざんお世話になったのは私の方である。そのHさんの話によく出てきたのがTさんで、「元司書で、非常に頭の切れる博識な女性」だと聞いていた。確か東欧出身の方なのだが、直接お電話をいただいてビックリである。
 「私は今、ドイツに身寄りがないので、自分が死んだ時のことを遺言状にまとめようとしているところなんです。そこで、私の葬式の時にあなたにオルガンを弾いていただけないかと思って電話したのです。Hさんのお葬式の時、オルガンを弾いていたのはあなたですよね?あれを聴いて、よかったと思うのでぜひ…」
 ますますビックリ@_@ 確かにその通り、Hさんのお葬式では彼女の遺言で私がオルガンを弾いた。しかし、まさかそれがきっかけでHさんの知り合いの方からこんな依頼が来ようとは。
 「もちろん、喜んでお引き受けします。」とお返事して、遺言状に記入する上でどうのこうの、という事務的な話をした後で、Tさんは遺言状を準備しているなんて、どうしたのだろう?と少し心配になった。そこで「声を聞く限りでは、お元気なんでしょう?」と探りを入れてみた。
 「ええ、病気は一切ないのですが、足腰の関節が固まってしまっていて、上手く動かないのです。それでもう長いこと、家にこもってるんですよ」とのお返事だった。昼食はMaltester(主に独り暮らしの老人を支援する福祉団体)が運んでくれるし、他にも知り合いが何かと外での用事をしてくれるので、不自由はしていないという。
 そうはいいながら、しばらく身の上話をするうちに「今度機会があったら訪ねてきてくださいよ」と言って下さり、お電話番号をいただいた。「いきなり電話をかけて、こんなお願いをして快く引き受けてもらえるなんて、とても嬉しいです。」とTさんがおっしゃるので、「お電話いただいて、嬉しかったのは私の方です。今度近くに行く時はお電話させていただきますね。」と言って、受話器を置いた。

 こういう話が来るのは、ある意味とても嬉しい。亡くなったHさんがその橋渡しをしてくださったことも含め、「人と人との出会い」の不思議さを感じて暖かい気持ちになる。ただ依頼が「お葬式の奏楽」なのでなんとも複雑な気分である。Hさんに依頼されたときもそうだったが、このお引き受けした仕事の時が永遠に来なければいい…とどうしても思ってしまうのだ。人は確かに永遠には生きられないのだけれども…。
 残された時間がどのくらいあるのかわからないけれど、せめてTさんに直接お会いして知り合い、共によい時を過ごすことが出来たらいいなと思う。

助っ人が登場!!

 合唱団「ダ・カーポ」、本番前最後のプローベ。いつものごとく早めに行って、教会の鍵をあけて準備していたら、いつものメンバーに加えて見かけない顔が何人かやってきたので挨拶。隣の教会の合唱団のメンバーや、ずいぶん前にうちの合唱団で歌っていたことがある、というメンバー。団員が助っ人をスカウト(?)してきたらしい。
 牧師も加わって、結局ソプラノ2人、アルト1人、そして…テノール1人が助っ人として登場。ということはうちの合唱団は現在、バスがいないのに

テノール5人!

 …はっきりいって凄すぎる。ドイツ広しと言えど、こんな構成はうちの合唱団だけなんじゃなかろうか…(大汗)

 こんな本番直前になって助っ人が加わるというのはありがたい反面、助っ人の実力次第では危険なのだが、さすがにスカウトしてきた人たちもちゃんと考えていたみたいで、歌わせてみたらなかなかいい助けになってくれていた。ソプラノはしっかりした感じになったし、アルトもバッチリ。新たに加わったテノール氏のために、パート練習で音取りをし直さなければならない箇所もあったが、このテノール氏はなかなかの芯のある声を出す人で、心強い助っ人である。(ちょっと鼻にかかった声だけど^^;)
 テノールにとって低すぎる箇所を1オクターブ上げて歌わせるかどうか、まだ迷っていたのだが、案の定その箇所に差しかかったら、テノールの一人が上げて歌いたいと言い出した。そこで「試してみよう」という台詞が私の喉まで出かかったところへ、助っ人テノール氏が一言で全員を黙らせた

「何を言ってるんだ!これくらいの低音、出るに決まっとる!大丈夫だ!!」



 ♪嗚呼、テノールよ…

 頼もしきテノールよ

 あなたの一番の魅力は その

 全く根拠のない自信♪



 ……無茶苦茶迷惑、ともいうのだが_| ̄|○

 が、それじゃ助っ人テノール氏、キミは低音が出るみたいだから頑張ってくれたまえ。そこまで自信満々に宣言していて、はずしたら怒るよ(笑)

 まとまってきたので、よし!と思って、前回のプローベにいなかった人と助っ人のために、もう一度歌詞のどこをどう歌って欲しいかを説明した。それから歌わせてみたのだが、みんなだんだん楽譜に首を突っ込んでばかりいないで、指揮を見るようになってきているのがわかった。手で何かやると少しずつついてくるようになっている。いい傾向だ。
 自信なさげだった前回とは違い、みんな嬉しそうな表情でプローベを終えた。これで何とか、本番いけるかな!?もっとも、ゲネプロ(最後の総練習)が上手くいったときは本番が危ないというジンクスは有名なので、要注意だけど。

 練習の後で、ちょっとした飲み会&おしゃべり会。ワインとジュースとつまみを持ち込んで、わいわいしゃべるだけなのだが、ちょうど日本の両親から雛あられが届いたので、出してみた。あの小ささと色合いと、甘いのに甘すぎない微妙な味が不思議だったらしく、みんな珍妙な顔をして食べていたからおかしかった。
 今回のプロジェクトは、合唱団も私も慣れてきたことがあって上手くいったね、という話になり、前回のアドヴェント・プロジェクト終了後には、私のやり方に対する批判が、耳にしていたよりもっと多くあったことを合唱団の代表者から聞かされた。今ごろになって言うなんてシュヴァーベン人らしい配慮の仕方だが、自分の合唱団を持ったことがなくて、自信も何もなくおずおず始めたばかりの私には確かにありがたい配慮だったと思う。そもそもプロジェクトの結果だけで結構へこんでいたのに、批判の山まで舞い込んだら、思いっきり鬱になっていたかもしれない。

 ともあれ、あとは2回の本番をこなすのみ!上手くいきますように。 

やって来ました、飛び入りの仕事^^;

 夕方、家で合唱プローベの準備をしていたら、電話が鳴った。普段、この時間は私は家にいないので、電話がかかってくるなんて珍しいこともあるものだと思ったら、ホイマーデン教会の牧師からだった。業務連絡である。
 「今度の土曜日、洗礼式を行なうことになったんだけど、時間ある?」だそうで。堅信礼準備コース参加者の中から、受洗希望者が出たというのである。飛び入りの仕事だが、たまたま土曜日は空いていたので引き受けた。

 実は、今度の日曜日は堅信礼の日。幼児洗礼を受け、13~17歳になった子たちは、教会で1年間準備コースに参加し、じっくりキリスト教について学ぶ。その1年の期間が終わって、いよいよ信仰告白をして祝福を受けるのが堅信礼である。
 幼児洗礼と堅信礼は、日本で言うならお宮参りと元服式のようなもので、ドイツでは伝統的な習慣として長いこと行なわれていた。近頃、その習慣に疑問を抱く人が増えたのか、信仰は本人が大人になってから選ぶべきだと思うようになったのか、子どもが生まれても幼児洗礼を受けさせない親が増えてきた。それに伴って、幼児洗礼を受けないまま堅信礼準備コースに参加し、信仰を持って洗礼を受けるというケースも増えてきたように思う。
 ヨーロッパでは信仰を持つ、ということは「生きる上での世界観・価値観を持つ」ということと同義語である。これがあって初めて、一人前の大人とみなされる。大人への第一歩を踏み出したこの子の洗礼式が祝福されたものとなるよう、土曜日にはささやかながら音楽をもって応援したい。

受難節プロジェクト開始!

 今日から寄せ集め合唱団「ダ・カーポ」の受難節プロジェクトのプローベ(練習)開始である。本番は3月13日・20日の両日で、メーリンゲンの2つの教会の礼拝で歌うことになる。
 よりによって雪が降って、思いっきり積もっている。前回のアドヴェントプロジェクトの第1回プローベも雪の日だったよなぁ、と思い出しながら、何とか練習会場の教会にたどり着いた。合唱団用の楽譜がかごに入って置かれてある。この教会のW牧師(おっとりした女性牧師である^^;)が、隣りの教会まで行って借りてきてくれたのだ。

 この合唱団、プロジェクトごとに案内を配って歌い手を募るのだが、今回は女性12人、男性4人の申し込みがあったと聞いていた。男性4人ということは、テノール2人にバス2人?と前回の顔ぶれから予想していたのに、行ってみたらなんとテノール4人!!!!全国的なテノール不足で有名なドイツであるからして、これはほとんど奇跡である。……と感心している場合ではない。開始前に合唱団の代表とちょっと話をして、4曲用意してあったうち、4声のハスラーの"O Mensch, bewein sein Suende gross"は急遽諦めることにした。もう一つ4声の曲、テゼ共同体の"Nada te turbe"があるが、これは難しくないしなんとかなるだろう、という結論に達した。他2曲はソプラノ+アルト+男声の曲である。

 雪のせいか定刻には10人ぐらいしか来ていなかったのだが、とりあえず発声練習をはじめたら、何人か後から入ってきた。
 15分ぐらいかけてしっかりと発声練習をした後、まずは"Jesu, deine Passion"(イエスよ、あなたの受難を)から。有名な受難節のコラール(ヴルピウス作曲、1609年)なのだが、まずはピアノで伴奏しながら全員にコラールを歌わせてみたら、意外と自信なさげに歌っているので少し心配になる。
 3声の合唱曲に編曲したのはペツォルトで、1982年だから最近のものだ。アルトの音取りをしたが、おばあちゃん2人なのにとてもしっかり歌ってくれている。それから男声の音取り。これも我らが4大テノール(爆)が最初にしてはまあまあの音程で歌ってくれた。さて、とソプラノを歌わせてみたら、コラールのメロディーしか歌う必要がないのに、何ゆえかヨレヨレではないか。一番人数の多いパートなのに、しっかりしてよね…_ _;
 見るに見かねたアルトのおばあちゃん達が一緒に歌って音取りを手伝ってくれ、何とか歌えたので、ピアノで伴奏しながら3声で歌わせてみる。他の声部が聴こえてくると、とたんに危なくなったのが男声。アルトのおばあちゃん達は健在である。

 あちこち直しながら一通り歌えたところで、次の曲に移る。"Du schoener Lebensbaum"。新しい讃美歌作者として有名なトラウトヴァインが、17世紀のハンガリーの歌を1974年にドイツ語用に編曲したものである。(日本語版は讃美歌21の314番「神の国の命の木よ」)3声に編曲したのはアンガーで、1991年。これはさすがに知らない人も多いと思ったので、時間をかけて各声部の音取りをした。"Jesu, deine Passion"よりはるかに問題が多いだろうと思ったのに、思ったほどでなくてホッとする。これも、ピアノ伴奏付きで一通り歌えるところまで持っていく。

 ここまで来たら、もう残り時間が15分になってしまった。慌ててテゼ共同体の"Nada te turbe"の練習に入る。ドイツ語の歌詞とスペイン語の歌詞両方がついていて(原語はスペイン語)、ドイツ語で音取りを始めた。この教会ではもう何度も歌っているので、メロディーはみんな知っているらしく、一安心。打ち合わせではドイツ語だけ歌うことになっていたのに、やはりスペイン語も…という希望が出た。しかし…やばいことに発音指導の準備をしていない!私はこの讃美歌を知ってはいるが、見よう見真似の「似非スペイン語」で今まで歌っていたのである(汗)
 ところが!強い味方がいたのである。我らが4大テノールの中に、この合唱団唯一の外国人の歌い手がいたのだが、なんと母国語がスペイン語なのだそうだ。まさしく素晴らしい天の助けである!とりあえず、発音の質問には彼に答えてもらって、この場は切り抜けた。

 こうして、第1回プローベは何とか終了。今日はものすごく身体がだるくて、どうなるかと思っていたのだけれど、ひとまずホッとした。次のプローベまでに、体調を整えていろいろ準備しようと思う。

世界祈祷日のテーマは…

 3月の第一金曜日は世界祈祷日。毎年一つの国をテーマにして、その国の人たちが作った礼拝順序と歌を元に、教派を超えて世界中の教会が礼拝を捧げる日である。この礼拝は世界中で教会内の女性が中心となって計画し、とり行うことになっている。今年もその日がだんだん近づいてきた。

 いつものようにリコーダーアンサンブルに出かけていったら、その世界祈祷日の準備委員に呼び止められた。「世界祈祷日の礼拝の献金の時に、電子ピアノでショパンを弾いてもらえませんか?」だそうで。
 ってことは、今年のテーマ国は…ポーランド!!ですね(笑)
 ポーランド=ショパン、なんてとっても単純な構図だけど、やっぱりそれが一般人にもピンと来やすいだろうなぁ。ペンデレツキを是が非でも演奏してくれなんてさすがに言わないだろう(笑)※注:ペンデレツキはポーランドの現代作曲家。
 正直に言って、電子ピアノでショパンを弾くのは嫌である。ピアノらしくは作ってあるが、あくまで「猿真似」に過ぎない楽器だから、まともに演奏しようと思ったら使い物にならない。だが、教会の会堂内にアコースティックのピアノがないのだから仕方がない。電子ピアノでも音量が問題ないなら、という条件付でとりあえずOKしたが、ちょっとばかり気が重い。

 ともかく、引き受けたからにはぶつくさ言ってないで、選曲にかかりましょうか…。やっぱりマズルカあたりがポーランドっぽくていいかなぁ?(注:マズルカはポーランドの民族舞踏の一つ。ショパンはたくさんマズルカを書いている。)