「やってみたらいいよ。」 | さいちゃんの教会音楽な日々

「やってみたらいいよ。」

 今日からシュテックフェルトの教会合唱団も、夏休み後の練習開始。早速10月8日の収穫感謝祭礼拝で歌うことになっているので、その選曲をしないといけなかったのだが、私の悪い癖でギリギリまで手をつけずにいて、今日の午前中慌てて楽譜に目を通すことに。当然時間が足りるわけもなく、ピアノレッスンの仕事に行く電車の中でも楽譜とにらめっこ。にしても礼拝の流れがわからないと、いまいち選曲にも確信が持てない…と悩んでいたら、仕事と仕事の合い間にシュテックフェルトのJ牧師から携帯に電話がかかってきた。

 「今日の合唱練習なんだけど、収穫感謝祭礼拝で歌う曲、もう決めておかないと…」とJ牧師。「いくつか曲の候補を選んではみましたが、あなたと打ち合わせをした上で、どんなものか練習で歌ってみようかと思っていたんですよ」と答えたら、「それじゃ、30分早く教会で落ち合って、打ち合わせしましょう」ということに。「礼拝で、讃美歌の"Vertraut den neuen Wegen"(新しい道に信頼しよう)を歌うことだけは決めてるんだけれど」というので、「あ、それじゃあ、その曲の合唱譜があるかどうか、打ち合わせまでに探しておきます」と返事した。

 「ああ、それから…もう聞いているかもしれないけれど、うちの合唱団の元指揮者のH氏が亡くなったんだよ。」とJ牧師は続けた。初耳だった私は少なからず驚いた。ずっと病気だとは聞いていたけれど、6月ごろには少しよくなったと聞いていたのに。「いや、まだ知りませんでした。そうだったんですか…。」他に言葉も見つからず、そう答えるしかなかった。「練習の時に、そのことに関して一言みんなにアナウンスしたいんだけれど…」というJ牧師に、「もちろんです」と私。


 シュテックフェルト合唱団の元指揮者だったH氏は、音楽好きの引退牧師であったと聞いている。「一緒に歌うことの楽しさを教えてくれた」と団員の1人は言っていたが、この合唱団がここまで歌えるようになったのには、H氏の功績が大きかったらしい。残念ながら病気で指揮者を辞めざるをえなくなったのだが、今でも団員のみんなに慕われている存在だ。

 私自身は、一度だけ直接電話で話したことがある。この合唱団の指揮者に応募する前に、「合唱団の音楽的なレベルやレパートリー等については、僕は専門家じゃないから昔の指揮者のH氏に電話してきいてみて」とJ牧師に言われて、電話をかけて話をしたのだった。

 一通り合唱団について教えてくれたあと、H氏は電話をかけてきたコイツは何者なんだろうと興味を持ったらしく、何をしているのかとか、教会音楽家の資格を持っているのかとか、いろいろ聞かれたのを覚えている。ひとしきり話したあと、H氏は私にこう言った。「うん、(指揮者を)やってみたらいいよ。熱心な、とてもいい合唱団だから。」と。

 ……この「やってみたらいいよ。」という言葉が、H氏の最後の言葉になってしまうとは、思ってもみなかった。その後、何度も話に聞きながら、ついにお会いすることなく、H氏は天国へ旅立ってしまったのだ…。


 というわけで、30分前にJ牧師と打ち合わせて、礼拝で歌う曲を決めてから合唱練習に臨む。"Vertraut den neuen Wegen"の合唱譜も、無事合唱団の楽譜コレクションの中から見つかった。実は、この合唱団はびっくりするほどたくさんの楽譜を所有している。まだ私にも全然把握しきれていないのだが、おそらく教会暦のあらゆる時期に対応できるだけのコレクションにはなっているだろうと思うので、追々少しずつ楽譜に目を通したいと思っているのだが…。

 発声練習のあとでJ牧師からH氏の話があり、その後H氏が作った歌の楽譜がみんなに配られた。せっかくだから、その曲を私が伴奏してみんなで歌うことにした。もちろん私は初めて見る曲だったが、初見で讃美歌を伴奏するのは毎週のことなので(←コラ^^;)お手のものである。"Ich bin verknügt, erlöst, befreit"(私は楽しみ、救い出され、自由にされた)という歌で、リズミカルで明るい曲だった。

 でも、さすがに歌い終わったあとし~~んとしてしまった。…どうしよう、と一瞬当惑したのだが、「この楽譜、記念に持って帰って、ときどき家でも歌って下さいね」とだけ言って、パッと収穫感謝祭礼拝の曲の練習に切り替えてしまった。もっと気の利いた台詞が言えたらなぁ、と内心思いながら…_ _;


 この合唱団で仕事を始めてから、やっと半年。H氏の言うとおり熱心でとてもいい合唱団で、みんなよくついて来るのでやりがいがあるのだが、駆け出し指揮者の私はまだ毎回の合唱練習が暗中模索の状態である。これでいいのかなぁ、と悩んでいる時に、ふっと思い出すのがH氏の言葉だ。


 「やってみたらいいよ。」


 …そうですね、やってみます。駆け出しだけど駆け出しなりに、暗中模索でも一生懸命。

 今日J牧師が「H氏の望んでいることは、我々が歌い続けることだと思う」とおっしゃっていましたが、あなたが育ててくださったこの合唱団と一緒に、楽しく音楽しながら成長していけたら…と思っています。

 だから、天国から見守っていてくださいね。