出張で結婚式のお仕事 | さいちゃんの教会音楽な日々

出張で結婚式のお仕事

 今日は結婚式。といってもホイマーデン教会ではなくて、シュトゥットガルトの少し南にあるアイヒという小さな村でのお仕事である。

 ホイマーデン教会の会員が、自分の母親の出身地で知り合いも多いアイヒで結婚式を挙げたいと言い出したのだが、こういう場合、原則として建物は借りるが、担当は所属教会の牧師とオルガニストとなる。そんなわけで、牧師も私も出張になったのだ。同じくホイマーデンのMKさんも、式の中で歌うため出張。


 朝から雨が降っている。式の後ガーデンパーティーを計画していたお2人にお気の毒だなと思いつつも、こればかりは仕方がない。

 家からアイヒまでは、1時間以上は確実にかかる。何度も乗り継ぎをして、アイヒに近づくにつれて空が明るくなり、晴れ間が見えてきた。式の1時間15分前には教会に到着したのだが、すっかりいい天気でびっくり。でも扉の鍵が開いていなかったので、途方にくれてしまった。教会の周りをうろうろして、牧師館のベルを鳴らしてみたら、休暇中のはずなのにひょいと2階から誰かが顔を出して、教会の鍵の隠し場所を教えてくれた。

Aich-Kirche

 アイヒの教会もホイマーデン教会同様、中世のとても雰囲気のある建物である。中はしかし30数年前に大幅に改装されていて、昔の写真だとオルガンが真正面の2階、祭壇の上の方にあったのだが、今はその2階部分がなくなって、オルガンは会堂の左端の、演奏台からは祭壇が全く見えない位置にある。その代わりモニターがついていて、スイッチを入れると祭壇が映し出されるようになっている。

 オルガンビルダーはヴァイクレ。ホイマーデン教会のと同じ会社だが、アイヒのオルガンの方が少しストップ数が多い。といっても、ペダルのリード管の音色がきれいとか、ミクスチュアが2段階になっているとかの他には、どこにでもある、これといった特徴のないオルガンでちょっと退屈である。教会内がおそろしく暗かったので上手く写らなかったが、オルガンはこんな感じ。

Weigle-Orgel(Aichtal)

 少し指慣らしをしていたら、MKさんがやってきて歌との合わせ。そうこうしているうちに、花婿の母親がやってきた。恰幅のいい世話焼きのおばちゃんで、この結婚式やパーティーをかなり仕切っているらしいのだが、花嫁さんやりにくいだろうな、とちょっと同情したりして^^;

 そのうち牧師も到着。誰か初老の紳士を連れてきたな、と思ったら、カトリックの神父であった。花嫁さんはフランス語圏の出身で、カトリック教徒なのである。それで、プロテスタントとカトリック両方の、牧師&神父の立会いで式を行うことになったらしい。


 あっという間に時間は過ぎ去って、14時の鐘が鳴り始める。前奏はファニー・ヘンゼルのオルガン前奏曲。マイナーな曲だが、何せ自分の結婚式用に書いた華やかな曲であるからぴったりである。しかし、弾いていてなかなか新郎新婦が入場してこないので、焦って後ろを気にしているうちに思いっきり間違えてしまった。結局、最後の15秒ぐらいの間に、牧師+神父+新郎新婦が少し早足でオルガンの横を通り過ぎて行ってくれて、最後の和音を長めに押さえることで何とか切り抜けた。

 挨拶のあと、まずMKさんとバッハ=グノーの「アヴェ・マリア」を演奏。式が全部ドイツ語で行われるので、ドイツ語のわからない花嫁の親戚や友人達のために、せめて有名な歌を…という新郎の母親の希望だったのだが、「何で世の中にはもっといい歌がたくさんあるのに、よりによってアヴェ・マリアかなぁ」とうちの牧師が式の数日前にぼやいてましたっけ。

 祈りのあとで、お祝い事にはお決まりの讃美歌"Lobe den Herren, den maechtigen Koenig der Ehren"(栄光の力ある王、主をほめたたえよ)。この曲にはEG316と317の2通りの歌詞があって、今回はカトリックとプロテスタント両方で通用する316の方の歌詞で歌う。まぁ、メロディーは全く同じだし、歌詞の内容もそんなに違わないので、弾く側の私にはあまり関係がないのだが。

 短い説教のあとで、MKさんとシュッツの"Ich will den Herren loben allezeit"(すべての時に主をほめたたえたい)を演奏。それから聖書朗読があって、またお決まりの讃美歌EG331"Grosser Gott, wir loben dich"(大いなる神よ、私たちはあなたをほめたたえます)。これもカトリックとプロテスタント両方で歌うことの出来る、超有名な讃美歌である。

 そしていよいよ結婚の誓約。"Ja, mit Gottes Hilfe"(はい、神の助けによって決意します)の答えが、会堂内に神聖に響く。何回結婚式に出ても、この2つの"Ja, mit Gottes Hilfe."が聞けたときが最も嬉しい瞬間だ。"Ja"を言った2人はひざまずき、牧師と神父両方が手を置いて祝福、そして指輪の交換。そして教会から記念に聖書を贈られる。

 もう一度、MKさんとバッハのシェメリの中に入っている"Dir, dir, Jehova, will ich singen"(エホバよ、あなたにこそ私は歌いたい)を演奏。それからとりなしの祈り、主の祈りがあって、最後にこれまたお決まりの讃美歌EG321"Nun danket alle Gott"(すべての人よ、神に感謝せよ)。そして祝祷+アーメン唱。

 後奏には簡単なカデンツをつないだ即興演奏を行った。新郎新婦の退場のあと、続いてみんなも退場していく。かなりたくさんの人が集まっていたので(おそらく100人は確実にいたと思う)、結構長々と弾いた。カデンツをつないで、聞いている人が退屈しないように適当な転調をしながら間を持たせ、でもある種のモチーフをきちんと入れて弾くというのは、簡単そうで意外に難しく、いい勉強になる。


 今回司式をした神父はかなり音楽のことに詳しくて、式の前に私がファニー・ヘンゼルの曲を弾くと知って「おお、ファニー、フェリックス・メンデルスゾーンのお姉さんではないですか。この2人はユダヤ系の血が入っていたから、特に戦時中は曲の演奏を禁じられていたんだよ。こんなによく聴けるようになったのは戦後の話なんだ。」と教えてくれた。式の後はMKさんを捕まえて、「Jehovaっていう歌詞は今日一般には歌われないよね。エホバの証人を思わせるってことから、新しい讃美歌集では全部別の言葉に書き換えられてるでしょう?そもそもは、神聖4文字の読み間違えで…」と神学的説教(?)をしていた。もう定年で引退しているが、聖ゲオルク教会という、シュトゥットガルトでも大きな教会の神父をしていたのだそうである。引退後はホイマーデンに住んでいるとのことだったが、今まで会わなかったのが不思議。いや……神父はうちの教会の礼拝には来ないよね^^;ホイマーデンに住んでいる人材を、こういう形で用いる我らが牧師、さすがである。


 式を挙げたお2人に挨拶しておめでとうを言い、シャンパンを1杯いただいたあと、牧師の車にSバーンの駅まで乗せてもらった。結局お天気にも恵まれ、よい結婚式になったと思う。お2人の末永き幸せをお祈りしつつ。